2006/06/23 10:01:00
高校生の模擬投票
二十歳代の若年有権者の投票率の低下に歯止めをかけようと、松沢成文知事が県立高校での「政治参加教育構想」を打ち出した。県選挙管理委員会に事務局を置く啓発団体、県明るい選挙推進協議会も本年度から大学祭に出向いて啓発イベントを開くなど、選管の関心も高い。だからこそ知事もこうした構想をまとめることになったのだが、肝心の教育現場が置き去りになってはいないか。それが気掛かりである。
若年有権者の投票率の低下は、日本選挙学会でも「課題」の一つに挙げられるほど、今日的なテーマである。「構想」は、実際の国政選挙や地方選挙に合わせて高校生が一票を投じる「模擬投票」、選挙の啓発活動への生徒の参加、投票の意味と意義など民主主義教育の実践などが主な内容。これらの取り組みを通じて、選挙権を手にする直前の「有権者の卵」の政治参加意識を高めるのが狙いだという。
将来の有権者に対して、一票を投じることの意義を教えることには賛成だ。知事の構想にある、普通選挙実現の歴史、婦人参政権獲得の歴史を学ぶことも大切である。しかし、これら政治教育の主舞台はあくまで教育現場である。仮に知事の構想が今後、実現に向けて動きだすにしても、生徒たちに模擬投票を呼び掛けたり、政治参加の大切さを説くことになる県立高校側が「その気」にならなければ、成果を挙げることは難しいのではないか。
若年有権者の低投票率に歯止めをかけようという思い、目的が同じならば、誰が音頭を取ろうと構わない。むしろ知事の強力なリーダーシップで物事を進めた方が話が早いとする意見もあろう。
実際に、一九八〇年代から社会科の授業の一環として模擬投票に取り組んでいる都立高校の先生や模擬投票を呼び掛ける運動をしているNPO法人の間からは「一歩前進」などと、知事の構想を評価する声も上がっている。
だが、県内の教職員組合の関係者からは「政治参加教育の必要性は認めるにしても、教育現場で何をどのように教えるかは、知事から独立した教育委員会の守備範囲。そこまで知事が口を挟むのはいかがなものか」との反発が早くも起きている。
若者の政治離れを憂い、模擬投票運動を続けてきた人たちからの賛同と組合の拒絶反応。一見すると水と油のようにも映るが、ともに政治参加教育が必要だとの認識では「接点」を見いだすことも可能である。とすれば、「できれば来年夏の参院選を視野に複数のモデル校で実現させたい」などと、性急に物事を運ぼうとする姿勢は控えたい。
まずは当事者である教育現場の自主性を重んじる。そのことが「構想」実現の近道ではないか。
2006年6月23日付 神奈川新聞 朝刊 社説
http://www.kanalog.jp/column/editorial/entry_23271.html
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2006/06/23
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