自民党「学校教育における政治的中立性についての実態調査」に対する模擬選挙推進ネットワークとしての見解
2016年7月
模擬選挙推進ネットワーク
国政選挙初の18歳選挙権としての第24回参議院議員通常選挙(2015年7月10日投開票)において、全国各地の学校で「主権者教育/有権者教育」が行われ、模擬選挙推進ネットワーク(以下 推進ネットワーク)による呼びかけ・協力による「模擬選挙2016」も、50校を超える中学・高校・大学・NPOなどで行われました。6000人以上もの投票があり、その結果をすでに公表しています(第1次集約分)。
推進ネットワークは政治的・宗教的に中立な団体であり、2002年の町田市長選挙以来、模擬選挙の実施を呼びかけて活動をしてきました(団体設立は2006年。それまではNPO法人Rightsとして模擬選挙を実施)。模擬選挙の実施にあたっては、模擬選挙に取り組む学校・教員・団体に対し、教育基本法第14条(政治教育)を踏まえて、特定の政党・候補者への賛成・反対意見を一方的に述べ生徒・学生を一定の方向に誘導していると受け取られかねないような言動を控えること、公職選挙法などの法令を遵守すること等を強く求めてきました。それは、今回の「模擬選挙2016」においても同様です。
そうした中、参議院議員通常選挙の選挙期間中である2016年6月25日(土)に、自由民主党公式ウェブサイト上において、「学校教育における政治的中立性についての実態調査」(以下 調査サイト https://ssl.jimin.jp/m/school_education_survey2016 )が開設され(【資料1】参照)、7月18日(月)未明に終了しました(【資料2】参照)。
調査サイトを通じての実態調査は終了したものの、調査サイトにおいては、以下のような文言がありました。
「高校等で行われる模擬投票等で意図的に政治色の強い偏向教育を行うことで、特定のイデオロギーに染まった結論が導き出されることをわが党は危惧しております。」
この文言は、<模擬投票(模擬選挙)において偏向教育が行われやすい>との印象を受けることにつながりかねない内容で、模擬選挙の普及・推進に取り組んできた推進ネットワークとしては看過できません。
実際の選挙を用いた模擬選挙という方法は、総務省・文部科学省が作成した高校生向け副読本『私たちが拓く日本の未来 有権者として求められる力を身につけるために』において「模擬選挙(2)」として取り上げられているように、有権者として求められる力を身につけるために必要となる主権者教育の重要なツールです。主要政党の政策などをすべて示し、それらを生徒が読み、自ら考え、教室内外で討論を行い、メディア情報などに触れながら、未来の有権者がどの政党に投票すべきかを選んでいく教育方法です。模擬選挙においては、特定政党のみをとりあげて「特定のイデオロギー」を教えるようなことはありえないものです。
そもそも実際の選挙を題材にした模擬選挙は、諸外国においては数十万~数百万人規模で取り組まれるシティズンシップ教育・民主主義教育の一環としてポピュラーな取り組みであり、その教育効果の高さは様々な場面で言及されています。実際、今回の参議院議員選挙においても、模擬選挙を含めた主権者教育の効果によって、これまでの選挙において20代の投票率が3割台だった中、18歳台の投票率は5割を超える結果となっています(総務省発表の速報値より)。
また、自由民主党は、2015年7月8日に、自由民主党政務調査会文部科学部会名で「選挙権年齢の引下げに伴う 学校教育の混乱を防ぐための提言」( 以下、提言 https://www.jimin.jp/news/policy/128241.html 【資料3】参照 )を公表しています。この提言において、「1.政治参加等に関する初等中等教育の抜本的充実」として、以下のように書かれています。
【提言】
○ 子供達が国家・社会の形成者としての意識を高め、主権者として社会参画の意義についての深い理解の上に、その自覚を持って責任を果たすという意欲と態度を育むため、次のような施策を行い、政治だけではなく社会や経済の在り方など主権者として求められる知識の習得や自覚を高める教育を抜本的に充実させる。
①まずは・・・
すべての高校生に対して政治参加等に関する副教材を配布(模擬選挙や模擬議会、ディベート等の体験活動にすぐに使えるワークシート、公職選挙法に関する知識等)
このように、主権者教育の一環として模擬選挙の必要性を自覚し、模擬選挙等を通じて主権者として求められる知識の習得や自覚を高める教育を抜本的に充実させることが提言されています。しかし、今回の実態調査および調査サイトの文言からは、前述しましたように<模擬投票(模擬選挙)において偏向教育が行われやすい>との印象を与えかねないこととなっています。その結果、自民党自身も提言において必要としている、主権者教育の実施を妨げかねない状況となっているのも事実です。
模擬選挙に取り組む現場の教員等においては、授業内を含めて多様な視点からの議論を行うことが不可欠であり、特定の政党のみを取り上げるのではなく、政治的中立の立場で取り組むのは当然です。実態調査を報じる新聞報道によりますと、「「相当な件数」の事例が集まり、公職選挙法に明らかに反すると思われるものもの含まれていた」とあり、それが事実であるならば問題ではありますが、今回の実態調査は過度に現場を委縮させ、今回の参議院議員通常選挙で注目された18歳・19歳の若い有権者、ならびに未来の有権者である(主な)中学・高校生に対する主権者教育を停滞させていくのではないかと危惧せざるをえません。
事実、今回の参院選挙における模擬選挙においては、「政治的中立」を過度に意識するがあまりに、実際の政党名を伏して模擬選挙を行う(公立中学校)、選挙公報を配布するだけで教員は政党名すら授業内で話さずにも模擬選挙を行う(公立高校)、といった事例がありました。
その一方で、推進ネットワークで取りまとめた参院選の模擬選挙の開票結果は、実際の比例区の結果と大差はなく、今回においても、あるいはこれまでにおいても、いわゆる「偏向教育」によって結果が捻じ曲げられたという事実はなく、「偏向教育」が行われていたという事実もありません。また、模擬選挙の結果においては、特に地方選挙において実際の選挙結果と異なる場合もありますが、それはまさに、「未来の有権者の政策判断」と「実際の有権者の政策判断」が異なっていたことの証左であり(投票する世代が異なれば、政策判断の結果に差が生じてもおかしくはありません)、そうした結果の比較を通して、自分と政治の関わりについて考える機会となっています。
今、求められているのは、18歳選挙権時代において、主権者教育の取り組みを萎縮させることではなく、むしろ、積極的に取り組むような教育環境の充実化・後押しです。模擬選挙推進ネットワークは、政治的・宗教的に中立な団体として運営していくとともに、実際の選挙を題材にした模擬選挙を行う際には、政治的中立性および法令遵守を実施校・教員等に求めていきます。そして、模擬選挙ならびに主権者教育に対する誤解を取り除いていけるよう、啓発・啓発活動にも力を入れてまいります。
以上
※本見解に対する問い合わせは下記までお願いいたします。
模擬選挙推進ネットワーク 代表・事務局長 林大介(東洋大学社会学部 助教)
090-1991-7458 dhayashi1976@gmail.com http://www.mogisenkyo.com/
※模擬選挙推進ネットワークは、特定の政党・宗教団体などの影響下にはない中立・公平・公正な団体です
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自民党「学校教育における政治的中立性についての実態調査」に対する見解
【資料1】学校教育における政治的中立性についての実態調査 _ 参加しよう _ 自由民主党
【資料2】<実態調査終了>学校教育における政治的中立性についての実態調査 _ 参加しよう _ 自由民主党
【資料3】自民党・選挙権年齢の引下げに伴う学校教育の混乱を防ぐための提言 20150708
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